私の、ある日の日記から(愛媛への出張記)
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「え〜?私が一人で、四国の松山へ出張ですか?!」
 おもちゃメーカーのA社に入って2年目のOL・ノリコさんは、初めての主役での出張なので、驚くような、ほんの少し嬉しいような声を上げた。
「ああ、よろしく頼むよ。我が社の人形の新商品がヒットになるかどうかは、松山でのイベントにかかっているんだからね」
 ノリコさんの担当役員の馬須(ばす)常務は、にこやかに言って、会議を締めくくった。そして、会議室に一人残ったノリコさんは、窓から外の景色を見ながら、考えを思いめぐらせていた。
(あの新商品は、私の企画物だった。音声時計が入っているバスガイドさんの人形に「今、何時?」と話しかけると、「はい、今、午前6時です」と時間を答えるものだったわ。それを、松山での人気アイドルグループのコンサートを利用して、新発売のPRをするというもの。…後は、アイドルたちに、この人形と同じ制服を、どうやって着せるかよね。彼女たちの事務所に、いろいろな方法で説明しなくては…。)

photo  今日は、出発の朝。空は、小さな白い雲が一つあるだけの、快晴。通勤路にある公園を横切って歩いているときにふと目にとまった桜のつぼみは、冬から春への季節の移ろいを告げていた。
「そろそろ、暖かくなるわね」
 ノリコさんは、朝の日差しと汗をハンカチでさえぎりながら、そんなふうにつぶやいた。
 ノリコさんの家から、光が丘の駅までは歩いて10分ほど。いつもなら、光が丘駅から地下鉄に乗るノリコさんだが、今日は、空港アクセスバスというものを利用してみようと思った。こんな気持ちのいいゆるやかな風の春の日に、地上を使わない手はないもの。

 バス停には、自分と同じようなOLやサラリーマン、それに学生さんといったふうの人が数人、柔らかな日差しに抱かれるようにそっとバスを待っていた。
 やがて、こんにちは、といった感じてやって来た空港アクセスバスに乗り込んで、ノリコさんはふんわりした座席に腰を掛けた。
「空港アクセスバスなら、いちいち駅で階段を使って乗り換える必要も無いし、荷物が多くても空港まで一緒に直行してくれるから、楽だわ」
 などとつぶやきつつ、自分のノートパソコンを拡げたノリコさんは、早速、企画書の再確認を始めた。あんなに前夜これでもか、と作り直してみたのに、今こうしてみると、やっぱり何カ所も手を入れる必要があった。ゆったりと外の景色を見ながら気持ち良くやると、気分も仕事のアイデアもフレッシュになるようだった。そうして、羽田空港到着の数分前には、「サイコー!」と、今すぐ誰かに話したくなるような企画になったのを確信した。

photo  おかげでノリコさんは、安心して飛行機の中では十分睡眠をとることができた。
 ふと、目を覚ますと、松山空港に到着したことに気づいたノリコさん。仕事の会場は道後温泉のすぐそばで、これまた、道後温泉行きの空港アクセスバスがあることを、日本バス協会のホームページで確認していた。
「これに乗ってしまえば、また乗り換えなしで直行よね」
 ノリコさんは、『私は、空港アクセスバスってものをよく知っている』という少し得意げな表情をして、迷うことなくバスに乗り込んだ。
(初めての街でも、こんなに便利なバスがあることがわかると、あくせくしないで済むわね…。)ノリコさんの表情には、余裕のかわいい笑顔が浮かんだ。
 道後温泉バス停から歩いて数分、会場の建物の前で、手のひらに人の字を何度も書いては飲み込んだノリコさんは、よしっ!と、建物の玄関の扉を開けたのだった。

 アイドルの事務所の担当者に企画の説明を終えたノリコさんは、ハンバーガーショップに来ていた。
 まだ昼前だったので、店内には数人の若者と親子連れがいるくらいで、ノリコさんは広めの席に着いてノートパソコンを拡げて、メールで会社にお仕事の報告をしようとしたら、何と、馬須常務からメールが入っていた。
『仕事の話は、うまくいったか?』
 たった数文字のメールだったが、パソコン嫌いのあの常務さんだから、きっと、一生懸命打ったのにちがいない。
photo 『今、桜は七分咲きといった状況です。』
 ノリコさんは、そう返事を打ってノートパソコンを閉じると、帰りの飛行機まで数時間あるので、お土産を買うのも兼ねて道後温泉に入ることに決めた。
「朝からずっとスムーズだったわ。ここで、そんな自分へのご褒美しちゃおうっと。」

空港アクセスバスは、いつも笑顔で、次のノリコさんをお待ちしています。

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